だいぶまえの猫

~だいぶまえの猫~

今日は給料日。
二人とも風邪気味だが、カルビキングで焼き肉ブレイク。
年度末が順調に忙しくて、土日もおばあちゃんの様子を見に行けなさそうだ。
作業の一部を平日に回すことも考えたが、先伸ばしにする事がすこし不安だ。
帰り道、近所の交差点で停車する直前、突然猫が塀から飛び降りて、車へぶつかってきた。
妻がとても驚いて声をあげ、その声に驚いたが、猫は痛がったまま前の方へ逃げていった。
たぶん、大丈夫だろうか。
不吉なのかなんなのかよく分からない。
何かの知らせだろうか。
思いめぐらせてみて、ふとおばあちゃんが猫嫌いなのを思い出した。
妙な思いが巡り、頭をフラットにしようと思って寝ることにした。

朝方、まだ寝ている時間に、家の電話が突然鳴りだした。
うちの電話はすぐ留守電に切り替わるので、すぐに切れる。
まさかと思っていると、今度は携帯が鳴り出した。
ああ、まさか、、
母からだ。
おばあちゃんが危ない。
今病院に向かっているという。
急いで起きて、妻に思わず「行ってくる」と告げると、妻も支度を始める。
道中で、その事で妻に寂しい思いをさせてしまった事を知り申し訳なくなった。
病院に着くと、おばあちゃんは、もう意識があるかないかわからない状態で、手を宙に向かって動かしている。
前に家で見た時よりも、はるかに痩せていて事態の深刻さを感じる。
看病の方は、おじさんがおばあちゃんの手をしっかり握り、母をなかなか側に近づけ させないらしい。
色々考えながら、おばあちゃんに触れるタイミングを探している。

とりあえず小康状態になり、一度会社へ行くことに。
会社には事情を説明し、とにかく急ぎの一件の作業を進める。
もう一件の方は先方のデータが間に合わず、明日もそのために、出てこないといけない。
もっと強く催促するべきだった。
早く病院へという思いが、焦りを生む。
夕方には再び病院に戻ると、病室には停滞した空気が漂っていた。
おじさんは片手で小さな経典のようなものを読みながら、もう片方の手でおばあちゃんの手を擦っている。
結局その日は、病院の控え室で震えながら泊まり、翌朝二人は一度帰ることにした。
途中のコンビニで、ふいに妻の口から、
「さわやかな日曜~」
という歌が飛び出してきて、少しだけ空気がほどけた。