だいぶまえの柳橋

~だいぶまえの柳橋

料理人のGさんに朝市に誘われた家族に便乗して、出勤前に柳橋中央市場へやってきた。
名駅のビル街の一角に、突然活気のある朝市が広がっている。
その慌ただしい人と台車の交差する通りを、ずいずいと抜けては立ち止まり、魚を定め、またずいずいと進んで行くGさん。
周りからGさんの名で呼び止める声があがる度に、Gさんの知名度を実感する。
Gさんもそれに応え、話ながら品を決めてゆく。
買う量も箱単位だ。
その方が売る方も助かるから、買うときはまとめて買う。
それがGさんの付き合い方なのだという。
だから売る方も、自慢の品をGさんにどんどんアピールする。
ミッドランドの裏でカンバン方式とは違う秤の付き合い方があって、それはどこか安心する人のサイズにあったふれあいの感じがした。
それが馴れ合いを生むこともあるのだろうけど、そういう気概は世の中にもう少しあってもいいとも思うのだ。

一通りの買い物を済まして、いよいよGさん行きつけの食堂へ。
目立つような看板が店先にないため、ここに着いた時に目にしていたにも関わらず、気が付かなかった。
中はこじんまりとした店内のカウンターに、小皿に盛られた料理が並んでいる。
刺身を一口頬張ると、とろける。
さすが、市場の魚は違うのか。
仕事前の贅沢な食事をしながら、Gさんの関心は、僕らの子供の事になった。
子は最大の幸福、それはここでも変わらない。
今のところ子供はできていない。
親でもないうちから、どんな親になるかなんて考えてみても、あまり意味はないが、その縁があるのなら、君らがどんな人か想像すると少しどきどきする。